俺がまだ量産型学生だったころ、塾講師のバイトをしていた。
「時給が高いバイトねーかなー」とバイト雑誌をペラペラ見ていた俺の目に飛び込んできたのは【塾講師:時給2500円】の文字。
「これだ、これしかない!」と即電話。すると「面接と筆記試験を受けて欲しい」とのこと。
筆記試験か…。大手すべり止め大学に一浪の末に入学した俺のスーパー頭脳では危ないかもしれない…。
が、実際は希望する教科の試験を受ければいいだけだったので楽勝だった。面接も無難に切り抜け、中2と中3の社会科と小5の国語担当ということで採用になった。小5と中2はともかく、中3って受験学年じゃねえか!それをバイトに担当させていいの?大丈夫なのか、この塾は…。
国語担当というのは、案外たいへんだ。
漢字書き取りならいざ知らず、読解問題というのは基本的に教えようがない。
例えばこういう問題があったとしよう。
この時の正雄の気持ちは1〜5のどれに最も近いでしょう?
もちろん正解(ということになっている選択肢)はあるわけだが、どうして正雄の気持ちをそれと決め付けることができるだろうか。誠実にやるのなら「大多数の人はこう感じるから(もし自分の意見が違っていても)これが正解」という教え方になってしまう。
まあ、子どもにそんなことを言っても仕方ないから「ほら、ここで『涙がこみ上げた』って書いてあるだろ?だから正解は3番」と教えていた。しかし、教えながらもそれは普通の、大多数の文章読解を教えているだけであり、試験でマルバツをつけるのはそういう考え方を押し付ける「多数派の暴力」ではないかと感じていた。
しかし、そんな小難しいことを考えるのはめったになかった。だって子どもってかわいいから。小学生ってすごいかわいい。「せんせー、るろ剣読んでるー?」「先生、どこに住んでるの?」とか言いながら纏わりついてくる。ちょうどウチの弟と同世代だから話も合わせやすいし。
その点、中学生にはそういう無邪気さが少ない。まあ受験を控えてるわけで無理もないんだけど。
とはいえ、しょせんは子ども。テレビや恋愛の話をするとすごく食いついてきます。特に恋愛トークに対する食いつきは凄まじかった。俺も中学生の頃はあんなもんだったかもなー。
受験社会は基本的に暗記だから、いかに楽しく暗記させるかを考えていた。受験の翌日にはすべて忘れてしまいそうな、こんな暗記だけの作業なんて勉強とは呼べないよなーと思いつつ。
一流校を受験する奴らを教えるためには、それなりの予習というものが必要になるわけです。毎日大学に行っては予習&指導教案を作る日々。自分の勉強なんてそっちのけです。加えて、こちらの試験シーズンは奴らも試験シーズン。毎日のように補講補講ですよ。おかげで一年次の単位は壊滅的…。予定の6割くらいしか取れませんでした。
こりゃヤベー。来年度が始まる前に辞めようと思っていたら、契約更改で時給がアップしてしまい、あっさり継続。
学習しないバカは2年次も同じ地獄を見るのでした…。