「努力する」か「諦める」か、どっちかしかないよ。
人間に選べる道なんて、いつだってこの2つしかないんだよ。
これは「ハチミツとクローバー」の登場人物、
花本修司の言葉。
僕はこの時、ひとつ嘘をついた。3つあったんだ、選択肢は。本当は。
でも、2つしかないと信じていた方が道はひらけるから、3つめの答えを僕は口にしない。
これも花本修司の言葉。
「3つめの答え」って何だろう。それは作中では語られていない(もしくは俺の読解力不足)のだが、おそらくそれは…
将棋のプロ棋士ってどうやったらなれるか、知っていますか?
奨励会という養成機関に入り、6級からスタート。三段まで昇級したらリーグ戦に参加し、上位2名だけが四段(ここからがプロ棋士)となれるのです。奨励会員の約2割だそうです。裏を返せば8割はプロになれないのです。プロになれるまで努力し続ければいいと思うかもしれませんが、それを阻むこんな規則があります。
満23歳の誕生日までに初段、満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなかった場合は退会となる。
夢を見続けることすら許されません。
これは残酷ですが、その反面「この年齢ならば人生の取り返しがつくから」という親心のような意図もあるのです。もちろんこれは余計なお世話という面もありますが。
しかし人間は夢を見る生き物ですから、可能性が残っているうちはなかなか諦められないものです。プロ棋士にもなれず、将棋を諦めることもできず「今さら引き返せない」という思いを抱えたままくすぶり続ける…。そんなことがないよう引導を渡してくれるのです。「気の毒だけど、お前じゃダメなんだよ」って。
これが「3つめの答え」だと思います。
努力もせず諦めもしないこと。つらい現実から逃げて状況に流されること。自分の限界を感じながらも「可能性」に縋り続けること。
人は弱いから、ついつい「3つめの答え」を選びたくなってしまう。夢や可能性を追うことは素晴らしいけど、誰もがそれをつかめるわけではない。だから花本先生はこれを口にしないんでしょうね。