タバコ業界のロビイスト、宣伝広報担当として活躍する主人公。肺癌で死にそうな少年や政府の保健部門担当者を目の前にしても怯むことなく口先三寸で立ち向かう。銃口を向けられても爽やかな弁舌で切り抜ける。モノは言いよう、ああ言えばこう言う屁理屈(ディベートテクニック)を駆使して周囲を煙に巻いていく。
この映画、ともすればタバコ礼賛映画かと思われそうなタイトルだが、監督自身も言っているように題材はタバコじゃなくても構わない。アルコールでもドラッグでも原発でもファーストフードでも「批判を浴びやすいモノ」であればいいのだ。劇中にも同様のロビイストが飲み屋で集う場面が出てくる。自分たちを自嘲的にMOD(Merchant Of Death = 死の商人)と呼ぶ彼らは銃器業界、アルコール業界のスポークスマン。そんな仲間と情報交換をしながら、軽妙なトークで喫煙を推進していく主人公。
喫煙シーンが一切出てこないこの映画だが、喫煙派、嫌煙派のどちらに与することもなく中立的な立場で描いているのが気持ちいい。俺自身は緩やかな嫌煙派なのだが、それでも主人公には好感を持ってしまう。
どんなことにも一面の真実は含まれているが、一部が正しいからといって全部が正しいわけではない。逆に一部が間違っているからといって、すべてを否定してもいいというわけではない。「何にでも裏がある」なんてすべてを疑ってかかっていたら疲れてしまうけど、「偉い人が言っていたから」「みんなが言っていたから」と思考停止して従わず、この人はなぜそういうことを言うのか、果たしてそれは本当のことなのかを自分で考え、自分で決めなくてはいけないんだよなー。
楽しめて考えさせられる、いい映画。93点。