受験会場に向かう電車の中で忘れ物の最終チェックをしていた俺。(今思えば電車の中でチェックして忘れ物が発覚しても、時すでに遅しなんだけど)筆箱を開けると、消しゴムがない!最寄り駅から受験会場まで何分かかるかわからない。
案内には「徒歩10分」とか書いてあるけど、実際に10分でたどり着ける保証はない。となるとコンビニに寄って消しゴムを買っている時間的余裕はないかもしれない。そもそも最寄り駅の近くにコンビニはないかもしれない。
どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする…。
そうだ、駅の売店で買えばいいんだ。これならタイムロスも最少だ。アタマいいなー俺。売店を覗く。しかし消しゴムは見当たらない。お、俺の完璧な計画がっ…!切羽詰って売店のオバちゃんに聞く。「けけけ消しゴムって置いてないんですか」
「ごめんね、消しゴムはないのよー」それがオバちゃんの返事だった。俺はそれを聞いてよほどな裂けない顔をしていたのだろう。オバちゃんは「ちょっと待って。あたしが持ち歩いている筆箱に消しゴムが入ってたかもしれない」と言って裏でゴソゴソしてから、使いかけの消しゴムを俺に差し出した。「これ、使っていいよ。受験なんでしょ?がんばってね!」
ありがたかった。ちょっと清川虹子みたいな顔のオバちゃんだった(←恩知らず)けど、その時ばかりは仏に見えた。渡る世間は鬼ばかりじゃないなーと思った。
でも、その消しゴムは消えがよくなくて、結局はシャーペンのアタマに付いている小さい消しゴムを隣の席の人に貰って使ったのでした。ついでにその学校にも落ちたのでした。そうそううまくはいかないね。でもオバちゃん、ありがとうございました。あのご恩は忘れません。